保育園経営が難しい理由と成功のポイントを徹底解説

私は認可保育園で15年間主任を務めたあと、自分で小規模保育所を開業しました。認可申請も資金調達も物件探びも、全部つまずきながら経験しています。
この記事では、経営が難しいと言われる理由を制度と数字で整理し、収入の仕組み・事業形態別の難易度・失敗事例と撤退手順まで、開業を考える前に知っておくべきことをまとめました。
保育園経営が「難しい」と言われる理由とは

漠然と「難しそう」と感じる正体は、だいたい5つに分けられます。少子化、人材、規制、保護者ニーズ、初期投資。順番に見ていきましょう。
先に立場をはっきりさせておくと、私は「立地と事業形態を間違えなければ十分やれる」と考えています。ただし、なんとなく始めると確実に苦しくなる。そこは断言します。
少子化による園児確保の難しさ
待機児童は大幅に減りました。こども家庭庁によると、2025年4月1日時点の待機児童数は2,567人です。
一方で、保育所等の利用児童数は2024年4月1日時点で293万9,000人。受け皿は整ってきました。
つまり「足りない」時代から「選ばれる」時代に変わったということ。定員が埋まらなければ収入が立たない構造なので、ここが一番怖いところです。
保育士不足と人件費の高騰
保育園のコストは、その大半が人件費です。理由は配置基準。法令上の最低基準で必要な保育士数が決まっているからです。
| 年齢 | 子ども | 保育士 |
|---|---|---|
| 0歳児 | 3人 | 1人 |
| 1・2歳児 | 6人 | 1人 |
| 3歳児 | 20人 | 1人 |
| 4・5歳児 | 30人 | 1人 |
0歳児3人に1人。これがどれだけ重いか。少人数でも保育士を置かねばならず、人件費が固定費としてのしかかります。
しかも採用が難しい。保育士の有効求人倍率は全職種平均より高い水準で推移しています。登録はしていても働いていない潜在保育士も多い。
正直、私が開業して一番苦労したのもここです。物件より資金より、人が集まらない。これが現場の本音です。
法規制や行政手続きの負担
認可・監査は自治体の所管です。基準に適合しているか、運営状況がどうか、定期的に確認されます。
さらに2017年改定の保育所保育指針では、保育の質や全体的な計画の作成が求められています。書類は膨大です。
加えて、2024年4月から「こども誰でも通園制度」の試行的事業が始まりました。新制度への対応は自治体との調整や受け入れ体制づくりを伴い、現場の事務がまた増えます。
保護者ニーズの多様化
延長保育、病児対応、食物アレルギー、英語やリトミック。求められるものが年々増えています。
全部に応えようとすると人もお金も足りません。何を売りにして何を切るか、経営者が決める覚悟がいります。ここを曖昧にした園は、だいたい現場が疲弊します。
初期投資負担の大きさ
物件取得・改修、設備、人件費の先行投資。開園前に大きなお金が出ていきます。
特に認可は園庭や面積などの基準があり、物件の制約が厳しい。私が小規模保育所を選んだ理由の一つも、ここでした。投資を抑えやすかったからです。
収入構造とお金の仕組みを正しく理解する
難しさの大半は「お金の入り方を知らないまま始めること」から来ます。一般のお店と保育園は、収入の仕組みがまるで違います。

公定価格や委託費など収入の仕組み
認可保育所の運営費は「公定価格」で支払われます。職員配置や加算の取得状況によって金額が変わる仕組みです。
ここで誤解されがちなのが保育料。3〜5歳児は原則無償化されていますが、0〜2歳児は住民税非課税世帯を除き保護者負担が残ります。年齢構成で収入が変わるんです。
しかも保育料の算定は自治体ごと。世帯の住民税額などで決まり、全国一律の単価ではありません。
つまり収入の主役は保護者からの保育料ではなく、自治体経由で入る公定価格。だから定員充足と加算取得が、そのまま売上を左右します。
収支シミュレーションと損益分岐点の考え方
具体的な金額は地域・形態・加算で大きく変わるため、ここでは数字を断定しません。代わりに「考える型」を渡します。
収入は、ざっくり「在籍児童数×公定価格+加算」。支出は人件費が圧倒的に大きく、次に家賃・給食費・光熱費。損益分岐点は単純です。
在籍がほぼ満員になって初めて黒字、という園は珍しくありません。前述の通り収入は児童数に連動するので、定員が80%しか埋まらない前提で計画を組むくらいで丁度いい。満員を前提にした計画は、ほぼ崩れます。
資金調達の選択肢と比較
開業資金をどう用意するか。主な選択肢を整理します。
| 手段 | 特徴 | 向いている人 |
|---|---|---|
| 日本政策金融公庫 | 創業向け融資があり実績が浅くても相談しやすい | 初めて開業する人 |
| 民間金融機関の融資 | 金額の幅が大きいが事業計画の精度を問われる | ある程度の自己資金がある人 |
| 自己資金 | 返済不要で身軽だが手元が一気に減る | 小規模で堅く始めたい人 |
| 補助金・助成金 | 返済不要だが要件・申請・後払いが前提 | 制度を読み込める人 |
私の正直な意見。最初は公庫に相談するのが現実的です。事業計画を一緒に詰めてくれるので、計画の甘さに自分で気づけます。補助金は当てにして計画を組むと危ない。後払いが基本だからです。
ICT導入による業務効率化とコスト削減
人件費は配置基準があるので削れません。だからこそ、それ以外の業務を削る発想が要ります。
登降園管理、連絡帳、指導計画、お便り作成。ここを紙でやっている園は、保育士の残業がそのまま人件費に跳ね返ります。ICT化は人を減らす道具ではなく、辞めさせないための投資だと私は捉えています。
事業形態別に見る経営難易度の違い
ひとくちに保育園と言っても、形態で難易度がまったく違います。ここを知らずに「認可一択」で突っ込むのは危険です。

認可・認可外・小規模・企業主導型の特徴
| 形態 | 対象年齢の傾向 | 初期投資 | 参入のしやすさ |
|---|---|---|---|
| 認可保育所 | 0〜5歳 | 大きい | 基準・園庭等のハードルが高い |
| 小規模保育 | 0〜2歳中心 | 抑えやすい | 比較的始めやすい |
| 認可外 | 制約が少ない | 設定次第 | 自由度が高いが公費が限定的 |
| 企業主導型 | 従業員枠+地域枠 | 中程度 | 制度要件と定員管理が鍵 |
私が選んだのは小規模保育。0〜2歳に絞れて、物件のハードルが認可より低く、配置基準の手当てがしやすかったからです。
ただし小規模は3歳で卒園になる。連携園を確保できないと、保護者に選ばれにくい。ここは正直、弱点です。
新規開園と事業承継・M&Aという選択肢
競合記事はほぼ「新規開園」前提で書かれています。でも、参入方法はそれだけじゃない。既存園を引き継ぐ事業承継・M&Aがあります。
承継のメリットは、すでに園児と職員と認可がついていること。ゼロから定員を埋める恐怖がない。私が今もう一度参入するなら、新規より承継を本気で検討します。
デメリットは、前の運営方針や人間関係を引き継ぐこと。簿外の問題が後から出ることもある。だから引き継ぐ前のデューデリ(中身の精査)が命です。
複数園展開やフランチャイズの検討
1園が軌道に乗ると、2園目で人やノウハウを使い回せます。これがスケールメリット。
フランチャイズはブランドと運営支援を借りられる反面、ロイヤリティと自由度の制約が残ります。私の感覚では、最初の1園で運営を自分の手で覚えてから検討すべき。最初からFCに乗ると、自園の経営判断が育ちません。
保育園経営を成功させるポイント

難しさの裏返しが成功要因です。定員が埋まり、職員が辞めず、加算を取りこぼさない。この3つに集約されます。
地域別・立地別の需要分析と市場調査
待機児童は地域差が大きいと前述しました。だから全国平均の数字で判断してはいけません。
自治体の子ども・子育て支援事業計画、認可の公募状況、近隣園の定員と空き。この3点を必ず見ます。役所の保育担当課に直接聞くのが一番早い。私は開業前、窓口に3回通いました。
ニーズに合わせた施設づくり
全部盛りは失敗します。地域に何が足りないかを見て、そこに振る。
駅近で0〜2歳の枠が足りない地域なら小規模、共働き層が多く長時間預けたいなら延長保育を厚く。立地と需要に合わせて尖らせる方が、結局選ばれます。
人材確保と働きやすい環境の整備
国は配置改善や処遇改善の加算を設けています。ただし要件を満たして申請しないと受け取れません。
潜在保育士が多い現状を逆手に取る。残業を減らし、有休を取りやすくするだけで、応募は増えます。私の園では事務のICT化と早番遅番の見直しで、定着が大きく変わりました。
補助金の活用と情報発信
補助金は返済不要ですが、要件と申請と後払いが前提。当てにして資金繰りを組むと危ない、と先に書いた通りです。
集客は園のホームページとSNSが基本。見学予約の導線を作り、給食やおむつ処理など保護者が気にする点を先回りで載せる。情報を出す園ほど信頼されます。
失敗事例から学ぶリスク管理と出口戦略
成功談より、失敗から学ぶ方が早い。ここは競合記事が薄い部分なので、厚めに書きます。

実際の経営者の失敗事例とその原因
よくあるのが「満員前提の計画」。在籍が想定より少なく、公定価格の収入が立たず、人件費だけ出ていく。これが赤字の典型です。
もう一つは、加算の取りこぼし。要件を満たしていたのに申請が漏れ、入るはずの収入を逃す。書類が苦手な経営者ほどここで損をします。
そして人が辞めて配置基準を割り、定員を減らさざるを得なくなる悪循環。人と収入は連動している、ということです。
廃園・撤退・倒産時の具体的な手順
始める話より大事かもしれない。閉じるときのことです。
認可園の廃止は自治体への届出と承認が必要で、勝手にはやめられません。在園児の転園先確保、職員の雇用、保護者への説明。この順で動きます。
私が好きな知恵袋の回答に、こんな趣旨の言葉があります。経営がうまくいかず閉園するとき、保護者や従業員に責任をとる覚悟があるか、と。開業を考える人ほど、この問いを先に自分にぶつけてほしい。
保育の質と経営効率を両立させる運営
効率だけ追うと保育が荒れ、保育だけ追うと経営が傾く。両立は綱渡りです。
私のやり方は、削るのは事務、守るのは保育時間、と線を引くこと。指針が求める計画作成や質の確保は手を抜かない。代わりに紙作業はICTに寄せる。ここを混同しないのが長く続けるコツです。
保育園経営に関するよくある質問
開業前に相談で必ず聞かれることを、3つにまとめました。

よくある質問
最後にひとつだけ。私は「保育園経営は難しい」を否定しません。難しいです。でも、難しさの正体は分解できる。役所に通い、数字で計画を組み、人が辞めない環境を作る。今日できる最初の一歩は、あなたが開きたい地域の保育担当課に電話することです。そこから全部が始まります。
- こども家庭庁「保育所等関連状況取りまとめ・待機児童数」
- 厚生労働省「保育所等の利用児童数の状況」
- 厚生労働省「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」
- 厚生労働省「保育士の有効求人倍率の推移」
- 厚生労働省「保育士の現状と主な取組」
- こども家庭庁「保育所等について」
- 厚生労働省「保育所保育指針」
- こども家庭庁「こども誰でも通園制度」
- こども家庭庁「公定価格・処遇改善等」
- こども家庭庁「幼児教育・保育の無償化」
- こども家庭庁「利用者負担額」
- 保育コンサル「小規模保育園とは」
- こども家庭庁「処遇改善等加算」
- 保育コンサル「保育園が赤字になる理由」
- Yahoo!知恵袋「幼稚園経営に関する回答」
- こども家庭庁「幼児教育・保育の無償化」
- こども家庭庁「待機児童数」
- 厚生労働省「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」
- 保育コンサル「保育園が赤字になる理由」
