小規模保育事業の収支シミュレーション|定員別の試算と作り方を解説

私は元認可保育園の主任を経て、自分で小規模保育所を開業しました。資金調達も物件選びも一通り苦労しています。
この記事では、売上の組み立て方、費用の内訳、定員別の試算、損益分岐点、そして自分でシミュレーションを作る手順まで、開業の判断材料になる形でまとめます。数字はすべて出典を確認できるものだけを使います。
小規模保育事業の収支シミュレーションとは

小規模保育事業の収支シミュレーションは、ざっくり言えば「入ってくるお金」と「出ていくお金」を月単位・年単位で並べて、黒字になるか確かめる作業です。
普通の飲食店のように「集客次第で売上が変わる」わけではないのが、この事業の最大の特徴。収入の柱は自治体からの給付費・委託費で、公定価格という国が決めた単価で計算されます。
シミュレーションが必要な理由
理由は単純で、開業してから「思ったより回らない」と気づいても遅いからです。物件契約も内装も人員も、走り出したら止められません。
小規模保育事業の収入は「利用定員」「在籍児童数」「年齢区分」「地域区分」「類型別単価」を置けば計算できる構造になっています。つまり、開業前に数字でかなり読めるということ。読めるなら、読まずに進めるのは怖いです。
小規模認可保育園の基本的な仕組み
小規模保育事業は、定員6〜19人の地域型保育事業です。0〜2歳児を対象とし、A型・B型・C型の3類型があります。
A型は全職員が保育士、B型は半数以上が保育士、C型は家庭的保育者という違い。類型によって配置基準も単価も変わるので、シミュレーションでは「自分はどの型でやるのか」を最初に決めます。
シミュレーションで分かること
分かるのは、毎月いくら入っていくら出るか。年間でいくら残るか。何人埋まれば赤字を抜けるか。黒字化まで何年かかるか。
逆に言えば、これらを把握しないまま物件を借りるのは博打に近い。私が開業前に一番時間をかけたのも、この試算でした。
売上の内訳と計算の根拠
売上の中心は保育料ではありません。0〜2歳児は幼児教育・保育の無償化の対象外で保護者負担はありますが、運営費の大半は自治体からの給付費・委託費でまかなわれます。

公定価格と委託費の考え方
公定価格は、子どもの年齢・地域区分・施設の類型などをもとに国が定めた1人あたりの単価です。ここに在籍児童数を掛けて、運営費が決まります。
大事なのは、単価が毎年見直されること。解説記事の数値をそのまま使うのではなく、必ず当該年度の公定価格単価表を一次情報で確認してください。私も毎年、年度更新の単価表を見直しています。
年齢別の単価と定員別の収入モデル
小規模保育事業は年齢構成で単価が変わります。0歳児は手厚い配置が必要なため単価が高く、1・2歳児は相対的に低い。だから0歳・1歳・2歳の児童数を分けて試算するのが前提です。
ここで一つ注意。0歳児を多く取ると単価は上がりますが、後述する人件費も跳ね上がります。単価が高い=儲かる、ではありません。
| 項目 | 内容 | なぜ必要か |
|---|---|---|
| 利用定員 | 6〜19人のうち何人で認可を取るか | 収入の上限が決まる |
| 在籍児童数 | 実際に何人埋まっているか | 収入は在籍ベースで動く |
| 年齢区分 | 0歳・1歳・2歳の内訳 | 年齢で単価が変わる |
| 地域区分 | 施設のある地域の区分 | 地域で単価が変わる |
| 類型別単価 | A型・B型・C型のどれか | 類型で単価と配置が変わる |
補助金の種類と受け取れる金額
運営費(公定価格に基づく給付費・委託費)のほかに、各種加算や自治体独自の補助があります。ただし金額は自治体ごとに差が大きい。
正直に言うと、ここは一律の数字を出せません。私が見てきた範囲でも、隣の市と補助内容がまるで違うことは珍しくない。具体額は必ず開業予定地の自治体の募集要項で確認してください。確かな単価が分からないまま「これくらいもらえるはず」と置くのが、一番危険です。
費用の内訳と項目ごとの目安
費用で圧倒的に大きいのは人件費です。公的調査でも、経営費の約6割〜8割程度が人件費に充てられていると示されています。ここを甘く見積もると試算が丸ごと崩れます。

人件費と保育士の配置基準の連動
人件費は「何人雇うか」で決まり、何人雇うかは配置基準で決まります。つまり園児の年齢構成が人件費に直結する。
0歳児が多い園は、それだけ保育士を厚く配置する必要があります。収入の高い0歳児枠を埋めても、その分人件費が増えるので、手残りは思ったほど伸びない。ここを連動させずに計算すると、必ず楽観的すぎる試算になります。
賃借料・光熱費など固定費
賃借料は地域と物件で大きく変わる固定費です。都心の駅近を狙えば家賃は跳ね上がり、毎月の収支を圧迫します。
私の実感では、物件は「設置基準を満たす最低限の広さ」と「家賃の安さ」のバランスが命。光熱費・通信費・給食材料費・教材費なども、月いくらと固定費としてきちんと積み上げてください。
見落としがちな税金・社会保険料
開業相談で抜けがちなのが、社会保険料の事業主負担分です。保育士の給与だけ計算して、これを忘れる人が本当に多い。
人を雇えば、健康保険・厚生年金などの会社負担が給与に上乗せでかかります。ざっくり給与の15%前後を別枠で見ておかないと、人件費を過小評価します。法人形態によっては法人税・消費税の扱いも変わるので、税理士に一度確認するのが安全です。
定員別・年次別の収支シミュレーション例

ここからは具体的な作り方の話です。ただし、公定価格の単価は年度・地域・類型で変わるため、私が架空の金額を断定で書くことはしません。代わりに「どう組むか」の枠組みを示します。
収支計算の実務では、年間の園児数を月別に入力して年間合計を出す方式が使われます。月ごとの在籍変動を織り込むのが肝です。
定員19名モデルの月次・年次試算
定員19名でやるなら、まず0歳・1歳・2歳の枠を何人ずつにするか決めます。例えば0歳3名・1歳8名・2歳8名、というふうに。
そこに当該年度・地域区分・類型の公定価格単価を掛けて月収入を出し、人件費・賃借料・固定費を引く。これを4月から翌3月まで12か月並べ、年間で集計します。年度途中の0歳児の入園は月によって埋まり方が違うので、満員前提で年間を作らないこと。
定員充足率が収支に与える影響
小規模保育事業の収入は在籍児童数ベースで動きます。だから空きが出れば、その分だけ収入が直撃を受ける。
一方で人件費や家賃はすぐには減りません。固定費はそのままで収入だけ落ちるので、定員割れは想像以上に効きます。私は「満員のシナリオ」と「2〜3名空くシナリオ」の最低2本は必ず作ることを勧めます。楽観だけで物件を借りるのは、本当に危ない。
3〜5年の中長期推移と黒字化までの期間
初年度は定員が埋まりきらないことが多く、立ち上げ費用も重なるので、黒字化までは複数年で見るのが現実的です。
地域型保育事業の収支差率は、こども家庭庁の調査で前回より下がっているか同水準ながら、他種別より高い水準と整理されています。ただし小規模保育事業単独の具体値までは資料からは確認できません。だからこそ、自園の数字で3〜5年の推移表を作ることに意味があります。
損益分岐点とキャッシュフローの管理
黒字かどうかと同じくらい大事なのが、お金が回るかどうか。利益が出ていても、入金が遅れて資金がショートすれば事業は止まります。

損益分岐点の計算方法と必要園児数
損益分岐点はシンプルに、月の固定費を、園児1人あたりの月収入(おおむね公定価格単価)で割れば、最低何人埋めれば赤字を抜けるかが出ます。
例えば固定費の合計が分かれば、必要な在籍人数が逆算できる。この「必要園児数」が定員19名に対して余裕があるのか、ギリギリなのかで、その物件で開業すべきかの判断が変わります。私はこの数字を最初に出します。
委託費・補助金の入金タイミング
見落とされがちですが、給付費・委託費はサービス提供と同時には入りません。自治体の処理を経て、後から振り込まれます。
つまり開業初月から、給与や家賃は先に出ていくのに、収入はしばらく入ってこない期間がある。ここを甘く見ると、黒字なのに資金が回らない事態になります。入金タイミングを月別の表に落とし込むのが安全です。
運転資金と初期費用の資金計画
初期費用は、物件取得費・内装工事費・備品・什器などで構成されます。これに加えて、入金までの数か月をしのぐ運転資金が必要です。
私が資金調達で痛感したのは、初期費用だけでなく「最初の数か月の人件費と家賃を払い切れる現金」を確保しておくこと。ここを薄くすると、開業直後に一番苦しくなります。
自分でできるシミュレーションの作り方
専用ソフトがなくても、表計算ソフトで十分に作れます。実際、私の最初の試算もExcelの一枚のシートから始まりました。

表計算ソフトでの作り方の手順
手順はこうです。横軸に4月〜翌3月の12か月、縦に収入項目と費用項目を並べる。年齢別の在籍数を月ごとに入力し、当該年度の公定価格単価を掛けて月収入を計算します。
そこから人件費・賃借料・固定費・社会保険料を引いて、月ごとの損益を出す。さらに入金タイミングをずらした「現金の動き」の行を別に作れば、資金繰りまで見えます。月別入力で年間集計する方式は、実務でも使われている考え方です。
テンプレートに入れる項目
| 区分 | 項目例 |
|---|---|
| 収入 | 公定価格に基づく給付費・委託費/保育料/各種加算・補助金 |
| 人件費 | 保育士・調理員等の給与/賞与/社会保険料の事業主負担 |
| 固定費 | 賃借料/光熱費/通信費/給食材料費/教材・備品費 |
| 初期費用 | 物件取得費/内装工事費/什器・備品 |
| 資金繰り | 入金タイミング/運転資金残高 |
始める前に確認したい募集要件・物件
試算の前に、開業予定地の自治体の募集要件を必ず読みます。募集している地域・類型・補助内容がそこに書いてあるからです。
物件は設置基準を満たすかが最優先。基準を満たさない物件で計画を進めても無駄になります。子ども・子育て支援情報公表システムでは施設類型ごとの定員等が公表され、小規模保育事業B型の表示例も確認できます。近隣施設の状況を知る一次情報として使えます。
赤字を防ぐための注意点と失敗事例

最後に、ここが一番リアルな話です。赤字に陥る園には、だいたい共通したパターンがあります。
収支が悪化する主な要因
一番多いのは定員割れ。次に人件費の過小見積もり、そして社会保険料や立ち上げ費用の見落としです。
収入は在籍ベースで動くのに固定費は減らない、という構造を甘く見ると、空きが続いた瞬間に一気に苦しくなります。人件費は経営費の約6割〜8割を占めるので、ここの見積もり精度が収支全体を左右します。
自治体・地域による公定価格の差異
公定価格は地域区分によって単価が変わります。同じ定員・同じ類型でも、地域が違えば収入が違う。
保育料の体系も自治体ごとに決まり、自治体独自の保育料シミュレーターが公開されている場合もあります。京都市のシミュレーターは0〜2歳・無償化対象外を前提に、給与年収などから概算できる仕組みです。ただし保育料は自治体・世帯・認定区分で変わるため、必ず該当自治体の情報で確認してください。
撤退・事業承継時の収支とEXITの考え方
あまり語られませんが、始める前に「やめるとき」も考えておくべきです。0〜2歳児限定なので、卒園後の受け皿として連携施設の確保が運営に影響します。
撤退するにも内装の原状回復費や雇用の問題が残る。承継するなら園児と職員を引き継ぐ価値が問われます。正直、開業時にここまで考える人は少ないですが、私は最低限の出口だけは想定しておくよう勧めています。
よくある質問
よくある質問
開業の判断は、感覚ではなく数字でしてほしい。まずは満員と定員割れの2本の試算表を、自分の手で作ってみてください。そこで初めて、その物件・その地域で勝負できるかが見えてきます。

- 独立行政法人福祉医療機構(WAM)子ども・子育て支援情報公表システム資料
- WAM 地域型保育事業の類型と定員に関する資料
- serve.jp 保育園の収支分析に関する解説
- WAM 収入を構成する区分に関する資料
- こども家庭庁 子ども・子育て会議資料(経営状況・人件費比率)
- serve.jp 月別入力による収支計算の解説
- こども家庭庁 収支差率に関する会議資料
- serve.jp 収支計算シートの考え方
- WAM 施設類型・定員の公表システム資料
- こども家庭庁 経営費に占める人件費の資料
- 京都市 保育料シミュレーター
- WAM 子ども・子育て支援情報公表システム資料
- こども家庭庁 子ども・子育て会議資料
- serve.jp 保育園の収支分析
- 京都市 保育料シミュレーター
